一年目の教科書
HOW TO

作業の手順

土篩いから秋起こしまで、13の工程をひとつずつ。それぞれ「何のためにやるのか」「どうやるのか」「どこでつまずくのか」の順に書きました。日付は地域と品種で変わるので、工程表ツールで自分の田んぼの暦をつくってから読むと使いやすいはずです。

一年の勝負どころは6月ですもみまき〜育苗で数日、田植え1日、6月の除草が週1〜2回×1時間半を1か月半、畔草刈りが月1回、水見が週2〜3回×15分、稲刈り1日。時間の大半は「見に行く」ことに使われます。集中して働くのは6月の除草だけです。
1土篩い(つちふるい)2塩水選と浸種3もみまき(播種)4耕運(春の耕起)5代かき6田植え7除草 — 自然栽培の本番8畔草刈り9中干し10出穂(しゅっすい)11出穂後の水管理12稲刈り13秋起こし

1土篩い(つちふるい)冬〜早春

育苗用の床土をつくります。自然栽培では市販の肥料入り培土が使えないので、田の土か畑の土を篩っておきます。

  1. 田んぼか畑から、前年に肥料を入れていない土を採る。表土より少し下の層が使いやすい。
  2. 冬のあいだに凍らせ、乾かして、雑草の種と病原菌を減らす。
  3. 5mm前後の篩でふるい、石と根を除く。育苗箱1枚あたり約4Lが目安。
  4. 燻炭を1〜2割混ぜると通気と保水のバランスが良くなる。
コツ床土は前年の秋から準備しておくと楽です。凍結と乾燥を繰り返した土は、ほぐれがよく雑草も出にくくなります。市販品を使うなら必ず「無肥料」表記のものを。
つまずきやすい点肥料入りの培土を使うと、苗が徒長して田植え後に倒れやすくなります。自然栽培では「小さくても太い苗」を目指すので、養分は要りません。

2塩水選と浸種もみまきの10日前

充実した種籾だけを選び、じゅうぶんに吸水させて、揃った発芽をつくります。一年の出来のかなりの部分がここで決まります。

  1. 生卵が浮くくらいの塩水(比重1.13前後)をつくる。比重計があると確実。
  2. 種籾を入れ、浮いた籾を捨てる。沈んだ充実籾だけを使う。
  3. 真水でよく洗い、塩を落とす。これを怠ると発芽が落ちる。
  4. 冷たい水に7〜10日浸ける。水温×日数の積算で100℃が目安(10℃なら10日)。
  5. 水は毎日入れ替える。濁ったまま置くと種が傷む。
  6. 鳩胸状に膨らんだら催芽へ。30〜32℃で2〜3日、芽が1mm出たら播種。
コツ浸種は「冷たい水でゆっくり」が鉄則です。急に温めるとむら発芽になります。積算100℃という数字は、大阪府など複数の県の資料で共通して使われています(にじのきらめきは120〜135℃)。
つまずきやすい点塩水選をやらずに播くと、実の薄い籾から弱い苗が出て、そのまま最後まで弱いままです。20分でできる作業なので、必ずやってください。

3もみまき(播種)田植えの約30日前

太くがっしりした成苗を育てます。自然栽培では田植え後の初期生育が勝負なので、苗の質がそのまま収量に効きます。

  1. 育苗箱に床土を2〜3cm入れ、たっぷり灌水する。
  2. 薄まきにする。乾籾で1箱あたり100〜130g程度。慣行の半分くらいの感覚。
  3. 覆土は5mmほど。厚すぎると出芽が揃わない。
  4. 出芽させたあとは、日に当てて緑化する。
  5. 水は朝に与え、夕方までに葉が乾く程度に。過湿は徒長と病気のもと。
コツ薄まきにすると1枚あたりの苗数は減りますが、1本1本が太くなります。疎植(坪40〜50株)で植えるので、箱数はそれほど要りません。1反で20枚前後が目安です。
つまずきやすい点厚まきは徒長の最大の原因です。「箱数を節約しよう」として厚くまくと、細い苗になって田植え後に浮いたり流されたりします。

4耕運(春の耕起)入水の2週間前まで

前年のわらや草を土に混ぜ、田面をほぐします。深く耕す必要はありません。

  1. 前年のわら・草を田面に広げる。
  2. 10〜15cmの浅耕で、表層に混ぜ込む。
  3. 入水の2週間前までに済ませる。分解の時間を確保するため。
コツ自然栽培では、わらを土に還すことが唯一の養分供給になります。秋のうちに秋起こしで済ませておくと、春の作業がぐっと楽になります。
つまずきやすい点入水直前にわらを鋤き込むと、田の中で分解が始まってガスがわき、根を傷めます(わきガス害)。2週間は空けてください。

5代かき田植えの3〜7日前

田面を平らにし、雑草の種を沈めます。自然栽培では代かきが除草の第一手です。

  1. 荒代かき:水を入れて土を大まかにかき混ぜ、田面をならす。ここでわざと雑草の種を発芽させる。
  2. 3〜7日待つ。この間に雑草が芽を出す。
  3. 植え代かき:荒代で発芽した芽を練り込み、表面を平らに仕上げる。
  4. 均平は高低差5cm以内を目標に。トンボやレーキで丁寧に。
コツ均平は除草剤の代わりです。高いところは水が浅くなって草が生え、低いところは苗が水没します。ここに時間をかけた分だけ、6月の除草が楽になります。
つまずきやすい点深く練りすぎると土が単粒化して、根に酸素が届かなくなります。「浅く、丁寧に」が自然栽培の代かきです。

6田植え地域による(工程表で算出)

疎植で植えます。株間を広く取ることで、風と光が入り、病害虫に強い株になります。

  1. 坪40〜50株(30cm×20cm前後)、1株2〜3本で植える。
  2. 植え付け深さは2〜3cm。深植えは分げつが遅れる。
  3. 植えたらすぐに深水(5〜7cm)にする。
  4. 手植えならひもを張って目印にする。1反で1〜2日仕事。
コツ疎植は自然栽培の要です。慣行の坪60〜70株より少なくすることで、1株あたりの養分が増え、株が大きく育ちます。無肥料でも収量が確保できるのはこのためです。
つまずきやすい点田植え日は気温で決まります。日平均気温が12.5〜14℃を安定して超えてからにしてください。それより前に植えると活着しません。適期は工程表ツールが地点ごとに計算します。

7除草 — 自然栽培の本番田植え後2〜25日

ここが最大の山場です。雑草が見えてからでは遅く、発芽初期(糸状期)に叩くのが要です。7日おきに3〜4回、繰り返します。

  1. チェーン除草(1回目):田植え後2〜5日。雑草がまだ見えない時期に、チェーンを引いて表層をかき混ぜ、発芽したばかりの芽を浮かせる。
  2. チェーン除草(2回目):1回目の7日後。次に発芽してきた芽をもう一度浮かせる。コナギの発芽ピークをここで断つ。
  3. 田車(たぐるま):田植え後8〜18日。条間を押して土を撹拌し、育ち始めた雑草を浮かせる。
  4. 中耕除草機:田植え後13〜25日。仕上げの回。土に酸素を入れて根張りも促す。
  5. 手取り除草:6月〜7月に随時。取り残しを見つけたら抜く。
コツ深水管理(5〜7cm)を並行してください。水深があると光が届かず、雑草の発芽そのものが抑えられます。除草作業と深水の合わせ技が、自然栽培の除草の基本形です。
つまずきやすい点1回目のタイミングを逃すと、その年は取り返せません。「まだ草が見えないから」と待つのが最も多い失敗です。草が見えない時期にやる作業だと覚えてください。

8畔草刈り5月〜9月に数回

畔を刈るのは見た目のためではありません。カメムシ対策と、作業の足場づくりです。

  1. もみまき前(1回目):冬を越した枯れ草を片づける。
  2. 田植え前(2回目):除草期の見通しを良くする。
  3. 梅雨時(3回目):草がよく伸びる時期。
  4. 出穂の2週間前(4回目):これが最重要。
  5. 稲刈り前(5回目):機械を入れる進入路を確保する。
コツ高刈りにしてください。丸刈りにせず10cmほど残して刈ると、カエルやクモといった天敵が住み続けます。刈り草は畔に敷いておけば土に還ります。
つまずきやすい点出穂の直前から出穂中に畔草を刈ると、草にいたカメムシが一斉に稲穂へ移動します。これが斑点米の主因です。出穂の2週間前までに刈り終えるか、出穂中は刈らないこと。

9中干し田植え後40〜50日ごろ

水を抜いて田を乾かします。無効な分げつを抑え、根を深く張らせ、土に酸素を入れます。

  1. 中干しの前に溝切りをしておく。排水と、その後の間断かん水が楽になる。
  2. 水を落とし、7〜10日かけて田面に軽くヒビが入る程度まで乾かす。
  3. 乾きすぎたら一度水を入れて調整する。
  4. 終わったら間断かん水へ移行する。
コツ自然栽培では土を痛めないよう「軽い中干し」にとどめます。慣行のように深く割れるまで干す必要はありません。足がわずかに沈む程度で十分です。
つまずきやすい点干しすぎると根が切れて、その後の吸水が悪くなります。逆にまったく干さないと、根が浅いまま倒伏しやすくなります。

10出穂(しゅっすい)田植え後65〜85日ごろ

茎の中で育った穂が外に出てきます。稲の一生で最大の節目です。

  1. 穂が出た日の午前中に開花し、2時間ほどで受粉が終わる。
  2. 田の半分で穂が出た日を出穂日と呼ぶ。
  3. 出穂日を必ず記録する。ここから収穫日を数える。
  4. 出穂前後2週間はたっぷりの水(花水)を保つ。
  5. この時期に田に入る作業はしない。見回りが中心。
コツ収穫適期は「出穂からの積算気温」で決まります。出穂日さえ分かれば、稲刈りの日はほぼ読めます。朝の田で一斉に開く籾の花は、一年でこの時期だけの風景です。
つまずきやすい点出穂前後に水を切らすと不稔になります。この2週間だけは、何を置いても水を見に行ってください。また出穂の1〜2週間前(減数分裂期)に日平均20℃を下回る低温が続くと、不稔が出ます。

11出穂後の水管理出穂〜稲刈り10日前

登熟に必要な水を届けつつ、根に酸素も送ります。

  1. 出穂後2週間はたっぷりの水を保つ。
  2. その後は間断かん水に切り替える。水を入れて2〜3日で自然に減るのを待ち、また入れる。
  3. この繰り返しで、根に水と酸素を交互に届ける。
  4. 稲刈りの約10日前に最後の落水をする。
コツ落水が早すぎると米が痩せます。農林水産省の資料では、出穂後23日で落水すると白未熟粒17.8%、33日で落水すると6.2%という差が出ています。落水は遅らせるほうが品質に有利です。
つまずきやすい点収穫作業をしやすくしようと早く落水すると、登熟不良になります。コンバインを入れる都合があるなら、10日前を守ったうえで日程を組んでください。

12稲刈り出穂後35〜50日ごろ

収穫適期は出穂後の積算気温で決まります。籾の8〜9割が黄化した頃です。

  1. 出穂日から積算気温を数える。早生950〜1,000℃、中生1,000〜1,050℃、晩生1,050〜1,100℃が目安。
  2. 出穂後40日目から田に通い、籾の色を見る。黄化率85〜90%が適期。
  3. 手刈りなら鎌で株元を刈り、束ねてはざ掛けへ。
  4. はざ掛けは10日〜2週間。天日でゆっくり乾かすと食味が上がる。
  5. 乾燥後、脱穀・籾すりへ。水分15%前後が目安。
コツ高温の年は早まります。出穂後5〜24日の平均気温が26℃を超えたら目標を50℃ほど下げ、27℃を超えたらさらに下げてください。工程表ツールがこの補正を自動で入れます。
つまずきやすい点刈り遅れは胴割れと穂発芽の原因になります。特に穂発芽しやすい品種(こがねもち、ヒメノモチ、キヌヒカリ)は要注意。コンバインを頼むなら、出穂日が分かった時点で予約を入れておくこと。

13秋起こし稲刈り後2〜4週間

翌年の準備であり、翌年の除草でもあります。ここを省くと来年の草が増えます。

  1. 稲刈り後、わらを田面に広げる。
  2. 早めに浅く(10cm程度)すき込む。
  3. 秋のうちに耕しておくと、雑草の種が地表に出て冬に死ぬ。
  4. 雪の多い地域は初雪の前に済ませる。
コツ秋起こしは翌年の雑草を減らす予防措置です。地表に出た雑草の種は、冬の凍結と乾燥で発芽力を失います。春だけ耕すのと比べて、翌年の除草の手間がはっきり変わります。
つまずきやすい点湿った田で耕すと土が練れて構造が壊れます。田が乾いた日を選んでください。

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