一年目の教科書
VARIETY

自然栽培に向いている品種

肥料を入れない田んぼでは、「肥料を効かせて多収する」ために育種された現代品種より、少ない養分でも自力で根を張る昔ながらの系統が力を発揮します。ただし在来種なら何でもいいわけではありません。その土地の気温に合うかどうかが、味より先に効いてきます。

先に結論品種選びで見るべきは3つです。①その土地の気温で登熟しきるか(熟期)、②倒れないか(耐倒伏性)、③病気に耐えるか(いもち病抵抗性)。食味はそのあとです。無農薬・無肥料では、②と③を薬で補えないからです。

1. 熟期がすべての土台

同じ日に田植えしても、早生は8月上旬、晩生は8月下旬に出穂します。この2〜3週間の差が、登熟期の気温を決めます。

登熟にいちばんいい気温は、出穂後20日間の平均で24℃前後です。これが27℃を超えると白未熟粒が増えて品質が落ち、逆に出穂後40日間の平均が21〜22℃を下回ると、登熟が間に合いません。

京都市・移植6月10日の実測から計算した登熟環境
品種熟期出穂出穂後20日の平均気温判定
こがねもち中生8/128.3℃高すぎる
あきたこまち早生8/528.0℃高すぎる
コシヒカリ中生8/1027.7℃高すぎる
きぬむすめ晩生8/2525.8℃
ヒノヒカリ晩生8/2925.1℃
にこまる晩生8/3024.9℃

関西でヒノヒカリが主力になっているのは、味の好みだけの話ではありません。晩生でないと登熟期の高温を避けられないという気象的な理由があります。逆に東北で育成されたササニシキや亀の尾を関西に持ち込むと、出穂が8月上旬になって高温にぶつかります。

あなたの田んぼではどうかこの教科書の工程表ツールで最寄りのアメダス地点を選ぶと、その地点の過去5年の実測気温から品種ごとの出穂日と登熟環境を計算し、◎○△×で判定します。上の表と同じ計算を、日本全国916地点のどこでもできます。

2. 倒れない品種を選ぶ

自然栽培では肥料を入れないので、慣行栽培より稲は倒れにくくなります。コシヒカリが「無肥料だとむしろ倒れにくい」と言われるのはこのためです。それでも長稈の在来種は倒れます。亀の尾もハツシモも、稈が長い品種です。

倒伏を減らす手立ては、品種のほかに疎植(坪40〜50株・1株2〜3本)、深水を早めに切り上げること、中干しをきちんと入れることです。それでも心配なら、イセヒカリのように稈が太く下位節間が短い品種を選ぶのが確実です。

3. いもち病に耐えるか

無農薬なので、いもち病が出たときに打つ手はほぼありません。冷夏や長雨の年に一気に広がります。雪若丸・つや姫・青天の霹靂・ヒメノモチはいもち病の圃場抵抗性が強い品種です。逆にコシヒカリ・キヌヒカリ・ササニシキ・こがねもちは弱いので、風通しと疎植でしのぐことになります。

品種の一覧

横にスクロールできます。数値の出典は表の下にまとめました。

★=自然栽培でよく使われる在来・固定種。出穂期と成熟期は京都市・移植6月10日の実測値(12品種のみ)。「—」はデータを確認できなかった項目です。
品種熟期出穂成熟移植→出穂
有効積算℃
出穂後
積算℃
耐冷性高温登熟いもち穂発芽耐倒伏
★五百川極早生7/238/25780
あきたこまち早生8/59/9890953やや強やや難
キヌヒカリ早生8/109/229821120
ひとめぼれ中生8/89/11945917やや弱やや弱
はえぬき中生8/89/13945966
雪若丸中生945966やや強やや強
つや姫中生8/13やや強やや強
青天の霹靂中生やや強
コシヒカリ中生8/109/229821120
ミルキークイーン中生8/109/199821052
★ササニシキ中生
★ササシグレ中生
★亀の尾中生
★農林48号中生
★ハッピーヒル中生
こがねもち中生8/19/78161017
ヒメノモチ中生8/89/219451155
ヒノヒカリ晩生8/2910/1213181002やや弱やや易やや弱
にこまる晩生8/3010/131335994やや弱
きぬむすめ晩生8/2510/11250896
さがびより晩生8/3110/91388やや易
新之助晩生1075やや弱
★ハツシモ晩生
★朝日(旭)晩生やや弱
★イセヒカリ晩生
★農林22号晩生
★黒米・赤米(古代米)晩生

出典:出穂期・成熟期と積算温度は京都市・移植6月10日の12品種特性一覧から算出。特性値は農研機構イネ品種データベース奈良県 ヒノヒカリキヌヒカリ山形県 つや姫農研機構 にこまる佐賀県 さがびより新潟県 新之助山梨県 五百川米穀機構「日本の在来稲とその現状」ほか。

自然栽培でよく使われる品種

下の8品種には公的な特性表がありません。在来種・固定種なので、県の奨励品種決定調査の対象になっていないためです。工程表ツールでも熟期の代表値で計算しており、実際の出穂日は前後します。少量から試して、自分の田での出穂日を記録することが、どんな資料より確かな情報になります。

★ 五百川 極早生

福島県本宮市の五百川流域で見つかった極早生。コシヒカリより出穂が約13日早く、収穫は2〜3週間早い。山梨県の試験では移植6月上旬→出穂7/23・成熟8/25。夏のあいだに穫り終えたい人、高温登熟を避けたい暖地に向きます。

公的な特性表が見つからず、数値データはありません。

★ ササニシキ 中生

あっさりした食味の代表格。耐冷性・いもち病・耐倒伏性のいずれも弱いという難しい品種ですが、肥料を効かせなければ倒れにくくなります。和食・寿司との相性は抜群。

耐冷性 いもち病 耐倒伏

★ ササシグレ 中生

ササニシキの親品種。少ない養分でよく育ち、澄んだ食味。自然栽培ファンの支持が厚い品種です。いもち病と倒伏には注意。

いもち病 耐倒伏

★ 亀の尾 中生

1893年に山形県の阿部亀治が育成。コシヒカリ・ササニシキを含む多くの現代品種の祖先です。長稈で倒伏しやすい。育成当時としては耐冷性に優れるとされました。

耐倒伏

★ 農林48号 中生

化学肥料が普及する前に育成された系統で少肥適性が高いとされます。公的な特性表の数値は確認できませんでした。

公的な特性表が見つからず、数値データはありません。

★ ハッピーヒル 中生

『わら一本の革命』の福岡正信が育成。強健で穂が大きく、無肥料でも多収が狙えるとされます。公的な特性表はありません。

公的な特性表が見つからず、数値データはありません。

★ ハツシモ 晩生

岐阜の在来。田植え6月上旬・刈取り10月上旬。長稈で倒伏しやすく、いもち病・縞葉枯病にも弱いため、自然栽培では畔際の風通しと疎植で対応します。

いもち病 耐倒伏

★ 朝日(旭) 晩生

京都府在来の「日の出」から選出され、岡山で育成。稈長91cm、耐倒伏性やや弱。西日本の自然栽培では定番の一つです。

耐倒伏 やや弱

★ イセヒカリ 晩生

1989年に伊勢神宮の神田でコシヒカリの株から見つかった品種。稈が太く下位節間が短いため倒伏に強い。公的な生育データは乏しいものの、初めての自然栽培でも扱いやすいと言われます。

耐倒伏

★ 農林22号 晩生

コシヒカリの母。化学肥料普及前の系統で少肥適性が高いとされます。公的な特性表の数値は確認できませんでした。

公的な特性表が見つからず、数値データはありません。

★ 黒米・赤米(古代米) 晩生

色素をもつ在来種の総称。品種により性質は大きく違います。少量から始めて、自分の田での挙動を記録してください。

公的な特性表が見つからず、数値データはありません。

種籾をどう手に入れるか

  1. 近くの自然栽培生産者から譲り受ける

    いちばん確実です。その土地で何年も採り続けられた種は、すでにその気候に適応しています。自然栽培の種苗ネットワークや、地域の勉強会が入口になります。

  2. 種苗店・通販で買う

    在来種を扱う種苗店から購入します。ただしその種がどこで何年採種されたかを確認してください。暖地で採られた種を寒冷地に持ち込むと、出穂が合わないことがあります。

  3. そして、自家採種へ

    収穫したら、いちばんよく実った株から翌年の種を採ります。これを毎年続けると、種があなたの田に適応していきます。自家採種こそが自然栽培の品種選びの完成形です。1年目から始められます。

品種登録に注意種苗法で品種登録されている品種は、自家増殖に育成者の許諾が必要な場合があります。つや姫・雪若丸・青天の霹靂・新之助・さがびよりなど比較的新しい品種が該当しえます。在来種・固定種(亀の尾、旭、農林22号・48号、イセヒカリ、ハッピーヒルなど)や、登録期間の切れたコシヒカリ・ササニシキは自家採種できます。購入時に確認してください。

迷ったら

「地域で実績のある品種」×「種籾・苗が手に入るか」で決めてください。西日本なら朝日・イセヒカリ・ヒノヒカリ、東日本なら亀の尾・ササシグレ・ひとめぼれあたりが入口になります。そのうえで工程表ツールにかけて、その品種があなたの地点の気温で登熟しきるかを確かめる、という順序がおすすめです。

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